コチニールは、16世紀頃の大航海時代に、スペインがアメリカ大陸に渡り、アステカ王国(現在のメキシコ)を征服し、存在が初めてヨーロッパへ知られることになりました。コチニール色素は、現地で採掘した銀などと共に、本国のスペインへ送られました。
当時、繊維産業は国の発展には欠かせない産業となっており、中でも発色の良い鮮やかな生地は、権力や豊かさの象徴とされていました。コチニール色素は、当時のヨーロッパにあった他のどんな赤い染料よりも鮮やかな赤色になる事から、上層階級の衣服などの染料や画材として欧州で需要が急増し、スペインに多大な利益をもたらしました。
それは、中世の絵画からもうかがい知ることができます。
15世紀半ばにフィレンツェで絶大な権力を誇った銀行家コジモ・デ・メディチ(1389-1464)はその死後、家族の依頼によって制作された肖像画において、全身に鮮やかな赤をまとっています。(16世紀はじめ、ヤコポ・ダ・ポントルモにより制作)
バロック画家、カラヴァッジョは、ミュージシャン(1595)等の作品でコチニールカイガラムシを使用しました。
ベルギー(当時はネーデルラント)を代表する巨匠、ルーベンスは、最初の妻であるイザベラ・ブラントを描くときにコチニールを使用しました。「イザベラ・ブラントの肖像」(1610)